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Lee-Byung-hun addicted

Lee-Byung-hun addicted

天体観測してみませんか1・・another story

僕が初めて揺に会ったのは友人のホームパーティでのことだった。

友人といっても彼は私の父ほどの年齢で日本でのビジネスにおいても僕に良きアドバイスをくれる人生の大先輩だ。

映画のプロモーションからも開放されホッと一息ついたときだった。

気分転換に遊びに来ないかと誘ってくれた。

彼にはちょうど僕と同じくらいの歳の息子がいてきっと僕と気が合うはずだと彼は言った。

僕は彼が大好きだったのでOFFの間に遊びに行く計画を立てた。

彼の息子の彰介は空港まで迎えに来てくれていた。

とても元気な感じのいい青年だった。

ハングルはわからないので英語でいいかと尋ねてきたのでOKと答えた。

彼の話は面白かった。

空港からの道々、ハングルのこと。

仕事のこと。

好きな食べ物のこと。

趣味のこと。

いろいろ話した。

彼のいいところは決して僕一人に話させないところだ。

人の話をよく聞いてから必ず自分のこと、自分の考えを言ってくる。

インタビューに飽き飽きしている僕には実に新鮮だった。

彼は昔から兄貴が欲しかったといって兄さんと呼んでいいかと聞いてきた。


僕もこんななぜなぜ聞く弟が欲しかったのでいいよと言った。

とても楽しかった。

彰介は鎌倉を案内してくれた。

素敵な歴史の街だった。

初めて見るものも多く新鮮だった。

彰介の解説も怪しくて笑えた。

とてもいい気分転換になって日本へ来てよかったと思った。

着替えと身支度にホテルへ寄ったあと久遠寺家に向かった。

映画配給会社のオーナー宅でのホームパーティーで映画関係者が来ると聞いていた。

とりあえず少しドレスアップしたほうが良いかと思いスーツを選びオーナー宅に向かう。

到着して挨拶すると皆暖かく出迎えてくれた。

思っていたよりも大勢のお客様が来ていた。

女性の方も多くいろいろ質問された。

往々にして楽しく時間が過ぎていった。


話をしながらふとあたりに目をやると一生懸命来客の面倒を見ている女性が目に映った。

彼女は飲み物がなくて困っている客がいるとどこからか用意してきたり、食事の世話を焼いていた。

最初はメイドさんかと思っていた。

でも時々目をやると話し相手がいなく手持ち無沙汰にしている客を見つけては楽しそうに話しかけてみたり、

久遠寺さんに呼ばれて通訳をしていたり、

久遠寺さんをバシバシ叩いてけらけら笑ったりしていた。

「彰、彼女は誰なの?」

と尋ねると彰介は笑って言った。

「ははは・・ヒョン目についた?

あれは近所のおばさん。

子どもが8人いて最近旦那に逃げられたんだ。

見てると面白いだろ。後で紹介するよ」


気が利く近所のおばさん子どもが8人で・・?・・それが彼女の第一印象だった。




パーティーが終わった後、少しして彰介が

「あっ、忘れてた。

揺を紹介するんだっけ。

帰っちゃったかな・・いたいた!」

といって僕を庭に誘った。

テラスには一人ワインのボトルを抱えて食事中の彼女がいた。

彰介は日本語で彼女と笑いながら話をしたあとでさっきのは冗談で

本当は彼女が幼馴染で映画の翻訳家であること。

英語とフランス語が話せることなどを教えてくれ紹介してくれた。

僕がワインをついであげると彼女は恥ずかしそうに挨拶をしてくれた。

たぶん、彼女は僕のことをよく知らないようだ。

ファンの人と会うと感覚でわかるものである。

パーティーで少し疲れていた僕にはそれがかえって心地よかった。


彰介がワイングラスを取りに行っている間、

彼女は僕に鎌倉の感想を聞いてきた。

僕が面白かったことを話すととても楽しそうに笑いタイミングよく相槌を打ってくれる。

話していてとても気持ちよく賢い女性だと思った。

彰介が戻ってきた後も3人で話が盛り上がった。

僕は彼女がどんな映画の仕事をしているのか興味が湧いたので尋ねてみた。

驚いたことにあまりメジャーではないが僕が好きだと思った映画の名前が出てきた。

彼女は嬉しそうに熱くその映画について語った。

観る視点やストーリーの解釈についても共感できる部分が多く会話が弾んでとても楽しかった。

北野監督作品やデビット・リンチの作品についても語り合った。

3人で映画の話をしていると時間が経つのがあっという間だった。

彰介が耳元でささやいた。

「揺と小さい頃一緒に映画見に行った時、

こいつ夢中になっちゃってお漏らししちゃってさ。

筋金入りの映画馬鹿でしょ」

僕は笑いながら僕の中でその時何かが生まれた気がした。



彰介が泊まっていけばというと彼女は明日ボードをやりに一人で海へ行くので泊まらないといった。

僕は久しぶりに海で遊びたいと思ったこともあったが

彼女にすこし興味があって一緒に海へ行くことを提案した。

3人で翌朝海岸へ行くことになった。とても楽しみだ・・




僕は楽しいことが待っていると思うと睡眠時間は少なくても平気な人間だ。

その分全くのOFFの時は死んだように寝ていたりするが。

揺と海へ行く約束をした日も睡眠時間は3時間くらいだったがとても元気で気分が良かった。

彰介の車で彼女の家へ迎えに行った。

彼女の家は坂の途中にあった。

昨晩は暗くてわからなかったが、とても古いがよく手入れの整った素敵な洋館だった。

車を降りて玄関まで迎えに行く。

彼女は既に仕度を整えて玄関ホールで待っていた。


ほとんど化粧っ気のない顔だったが元気で生き生きした感じがして気持ちが良かった。

車に乗った後、彼女の家について尋ねると建ててから80年ぐらい経つらしい。

彼女が「帰りに寄っていきますか」と聞いた。

他にしたいことがないわけでもなかったが自分でも不思議なほどすぐに寄っていくと返事をしていた。


海での2時間はあっという間だった。

彰介も彼女もボード歴は長いようでそれぞれが楽しみつつ、話もしながら海での時間を満喫できた。


シャワーを貸してくれたサーフショップのオーナーもとても面白い人だった。

いつも特別扱いしてもらうことが当たり前のようになり、時にはそれに息苦しさも感じていたのでこうやって普通に扱ってもらえることが心地よかった。

マスターは口の中にタバコを入れる僕の芸を見ていたく喜び、教えろと言った。

教えている間彰介と揺はずっと大笑いしていた。

とても楽しい気分だった。

海からの帰り、彼女の家に寄った。

朝食を用意してあるという。

僕は和食も大好きなのでとても楽しみだった。

来日した時はたいていホテルのモーニングだったりするので一般家庭の朝食を食べるのは初めてかも知れない。

家に着くと、あやさんという女性が出てきて日本語でにこやかに話しかけて僕たちを案内してくれた。

揺が「おかあさん」と呼んでいるのを聞いてあやさんがお母さんだと確認した。
あやさんは凛とした感じのするカッコいい女性だった。

親子だから当然だがどこか揺に似ている気がした。

テラスに行くと籐のテーブルに美味しそうな和食がずらりと並べられ、揺のお父さんが既に腰掛けていた。

彼は流暢な韓国語で自己紹介をしてくれた。

そして僕に楽しく過ごしているか困ったことはないかなどと気遣って聞いてくれた。

食事が始まると日本と韓国の食文化の話や好きな食べ物の話で盛り上がった。

揺と綾さんは韓国料理は焼肉しか食べたことがないという。

僕は昼食を作ってご馳走すると約束をした。

是非この人たちに韓国の料理を少しでも知って欲しいと思ったからだ。

食事の後、映画の話からお父さんの部屋に招待された。

部屋には壁一杯にDVDが並べられていた。

僕が興味深そうに眺めているとどんな映画が好きなのかとかあの監督のこの作品は・・などと話は尽きず、

揺以上にいろいろな映画について知っていて造詣が深いことにとても驚いた。

僕が探していたDVDのいくつかもコレクションとして棚に並んでいた。

恨めしそうに見ていると

「欲しいならあげるよ。持って行きなさい。

その代わりサインしてくれるかな・・」

と恥ずかしそうにいって「JSA」のDVDを差し出した。


揺のお父さんは男から見ても魅力的な人だった。

韓国語はビジネスで必要なことがあったので数年前に独学で勉強したらしい。

以前商社に勤めていた時も現在の雑貨の輸入会社の仕事を始めてからも海外に行くことも多く、世界中を飛び回っているらしい。

部屋には沢山の写真や資料がキチンと整理されていた。

いろいろな国で体験したこともとても面白く話をしてくれた。

旅好きな僕としてはとても興味深かった。

今、日本ではアフリカの雑貨が注目を集め始めたらしく、今度買い付けに行くといっていた。

「良かったら君も来るかい?」と聞いてくれた。

仕事が休みだったら是非行きたいところだが、たぶん難しいだろう。

行きたいが仕事があるのでと答えると彼はにこやかに笑って僕の肩をトンと叩いて、

「そうだね。人間やるべきときはしっかりやらないと。

無理せず君流にやってみるといい。

疲れてリフレッシュしたいときはまた遊びにおいで。

アフリカでも南極でも一緒に行こう。」

といってくれた。とても気分が楽になった気がした。



昼前に買出しに行くことにした。

駅前には韓国の食材店もあり美味しそうなキムチも買えた。

昼間ということもあるのでサングラスをして帽子を目深にかぶり人目につかないように出掛けた。

揺はそんな僕を見て

「スパイみたいでカッコいい」と言って大笑いした。

そういえば、これまで何度も来日したが商店街で買い物をしたのは初めてだった。

見るもの、聞くものがすべて新鮮だった。

僕にとって絶好の気分転換になった。

献立はキムチチャーハンとユッケジャンクッパにした。

時間がないので簡単に作れるものを選んだ。

最近は時間がないのであまり料理はしないが嫌いではない。

特に包丁さばきには自信があった。

案の定皆僕の包丁捌きを見てとても喜んでくれた。

料理は上出来だった。

皆口々に誉めてくれて恥ずかしいくらいだった。

食事の後彰介は帰ってしまい、

揺と二人で片付けをすることになった。


揺はハングルを教えて欲しいと言った。

いろいろなものの名前を聞いてくるので教えてあげた。

何でもない時間だったがとても楽しい。

彼女の笑顔を見ているととても癒される感じがした。

まだ1日しか一緒にいないのにずっと前から一緒にいるような感覚が僕を包んでいた。


あっという間に時間が過ぎ帰らなければならない時が来た。

僕にとって揺の家はこの上なく居心地が良かった。

僕を特別扱いしない綾さんと本当の父のように心配してくれるお父さんそして
いつも自然体の揺。

ここのところの忙しい生活に追われて失ってしまったものを少し取り戻せた気がしてとても元気になれた。

お父さんに今日のお礼を言うと

「いつでもまた遊びにおいで。

今度は夜、久ちゃんも誘って遊びにいこう」

と言ってくれた。

仲間に入れてもらったようで嬉しかった。

綾さんは日本語で一生懸命はなしてくれた。

多分またおいでといってくれているに違いない。

旅行先で言葉のわからない若者に一生懸命説明してくれる気のいいおばさんを思い出しとても暖かい気分になった。

揺は久遠寺家まで送ってくれた。

短い道のりのはずだったがとても長く感じた。

僕は彼女になんと声をかけようか考えていた。

この1日彼女と過ごしてたった一日だったが僕の中で彼女の存在は自分でも驚くほど大きなものになっていた。

ずっと昔から一緒にいたような感覚。

彼女と話していると気持ちが開放されていくような気分になった。

それでいて僕の知らない世界を教えてくれる。

ただ合わせるだけでなくてきちんと自分を主張する強さを持っている女性。

たった1日だったが彼女は多くのものを僕に与えてくれた。

しかし、この気持ちを伝えることは僕にはできない。

他に考えなければいけない問題も多いから。


掛ける言葉が見つからないまま久遠寺家の玄関についてしまった。

揺は一言もしゃべらない。

僕は声を絞り出すように言った。

「君と君の家族のおかげでとても楽しい一日だった。

ありがとう。

日本に来たらまた遊びに行ってもいいかな。」

揺は答えた。

「もちろん。

私も楽しかった。

ありがとう。」


心なしか声が震えている気がした。

しかし掛ける言葉が見つからない。

僕は黙って手を差し出した。

ハグしたら彼女を強く抱きしめてしまいそうだった。

彼女は僕の手をやさしく握った。

思ったよりもはるかに小さい手だった。

笑って別れ門に入った瞬間、このまま何も言わずに彼女と別れられないと思った。

また会わなくては。

僕は発作的に彼女に声を掛けていた。


「韓国に来たら絶対連絡して!僕の家に遊びにおいで!」と。

彼女は笑顔で
「もちろん!元気でね!」と答えてくれた。

また会えるのだろうか・・。

僕の心は寂しさで一杯になった。



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